松原正明建築設計室 建築家 板橋区 設計事務所 OMソーラー そよ風 薪ストーブ 住宅.別荘 自然素材の家

自然の恵みと共に暮らす家

09.jpg晴れた冬の朝、8時過ぎになると我が家の屋根が軋んでミシミシと音を立て始めます。屋根の板金が熱で膨張することで鳴るいかにも安っぽい音なのですが、この音が聞こえてくると私はつい微笑んでしまいます。なぜなら太陽熱が屋根にたくさん降り注ぎ、我が家の暖房が働き始める合図だからです。しばらくすると取り入れのファンが廻り、暖かい空気が屋根面から地下へと送られ、夕方4時過ぎまで家全体を暖めてくれます。そして日が沈み冷え込んでくると、いよいよお待ちかね薪ストーブの出番。まだ太陽の恵みで暖かい部屋に赤々と燃える火が点くとその炎は心に安らぎを与え、太陽と薪の暖かさが体の芯までしみ込んでいきます。

自然エネルギーの利用

 人は昔から昼に太陽で暖まり、夜には薪で暖を採ってきました。住居は自然の地形を利用した穴蔵。昼に降り注ぐ日差しは外側から穴蔵の屋根や壁を暖め穴蔵内部はその輻射熱で暖かく過ごすことができました。家族で囲む焚き火は食べ物を調理したり体を暖めたりするだけではなく、その熱が地面や壁に蓄えられることで朝まで暖かさが持続し、厳しい環境の中でもそれなりに快適に生活していました。

 また日本では昔から“家は夏を旨とすべし”と言われてきました。少し前までの日本の家は長い庇を出すことで夏の強い陽射しを遮ったり、引き戸を開け放てば家全体がワンルームになり涼しい風が家中を駆けぬけていったりと、いかに高温多湿な夏を乗り切るかという工夫がなされていました。その一方冬は火鉢や囲炉裏など局所的なものでどうにか寒さを凌ぐほかなく、決して快適とは言えないものでした。

 現代では簡単に機械で室内環境をコントロールできるようになったため、断熱と気密性能を高めた家がつくられ、冬でもエアコンが効いた室内でアイスクリームをほおばることも出来ます。確かに冬の快適さは昔とは比較にならないものですが、夏でも窓を閉め切り、夜に涼しい風が吹き始めても気づかずにエアコンの冷風に頼るような生活は、果たして快適と言えるでしょうか?

 機械にばかり頼らず、できるだけ自然のエネルギーを利用してその恵みを感じられるような生活をすることは、われわれに日々の楽しさをもたらしてくれるように思います。ここで紹介するのは我が家で採用している二つの自然エネルギーによる暖房です。

薪エネルギー

 木を伐って燃やすことは二酸化炭素を排出するため、地球温暖化につながると考えられがちですが、伐った後に成長する若木はその過程で薪として燃やすことで排出されると同等の炭素を吸収し固定化してくれます。また伐採された木は森の中で腐朽しても同じように二酸化炭素を排出しますから、放置せずに薪として暖を採れば、そのぶん化石燃料を使わないことになるので地球温暖化防止に役に立っていると考えられます。

太陽エネルギー

 現在使われているエネルギーの元をたどると、ほとんどは太陽エネルギーに起因します。この太陽エネルギーを変換せず単純な形で暖房として使う事は環境面でも大きく貢献する事ができます。もちろん夜間と曇りや雨の日には手に入れることができませんが、無尽蔵でクリーンなエネルギーですし、ひなたぼっこに代表されるようにもっともわかりやすく自然の恵みを実感することができます。

我が家の暖房

 東京板橋区のはずれにある我が家は、薪ストーブと太陽熱により地下一階地上二階+屋根裏の4層になった29坪の家全体を暖房しています。本来30坪ほどの住宅ならば、薪ストーブだけで家全体を暖房することが可能なのですが、敷地が狭く薪置き場が少ないことと、留守にすることも多いので薪ストーブの理想である24時間運転をすることが難しいという理由から、よりエコロジーな太陽熱を利用した暖房方式も取り入れました。屋根面に太陽熱を効率よく集める仕組みを作り、そこで暖められた空気は小さなファンで地下室の床下まで運ばれます。送り込まれた空気の温度はせいぜい30度程度と体温よりも低い温度ですが、冬の室温として考えれば暖房として充分に働きます。基礎的な室温は太陽熱で暖め、曇りや雨の日と夜は薪ストーブによって暖める考え方です。そうやって暖められた空気は吹き抜け状になった階段をゆっくりと上昇しながら家全体をまんべんなく暖めてくれます。

蓄熱と放射という考え方

 我が家は二階に居間とキッチン。一階はお風呂、トイレ、洗面所、寝室。そして地下には子供室と、薪ストーブが置かれた多目的なファミリーフームがあります。薪ストーブは「醜いアヒルの子」の愛称で知られるCI-1GCB。これを地下室に置いたところがみそ。薪ストーブの熱は地下室の壁コンクリートを暖め、さらにはその外側の地面までも暖めていきます。一方、屋根面で太陽熱により暖められた空気はファンで地下室の床下まで送られ、同じようにコンクリートとその下の地面に熱を蓄えます。送り込まれた熱は、まずコンクリートに取られてしまいますので直ぐには室温が上がりませんが、一度暖まると熱容量(熱を蓄える力)が大きいという性質が活かされ、室温が下がり始めた時にゆっくりと熱を放出してくれるので、一日の温度変化の少ない安定した環境を作ることができます。そして地下を暖めた空気は吹き抜け状の階段室を通じ一階、二階へと上昇しながら家全体を暖めてくれます。この蓄熱しながら輻射熱で暖房するという方式は、穴蔵で生活する熱環境に近く、人が生活するには理想的な暖房方式と言えます。
 先に書いたように、日本の昔の家は引き戸を開ければ部屋同士が繋がり、夏のために風通しよく出来ていました。私の家は間仕切りが少なく平面的だけではなく縦方向にもワンルームとすることによって夏には風通し、冬には薪ストーブと太陽エネルギーを各部屋で享受することが出来るようになっています。

換気しながら暖房する

 我が家の暖房方式でもう一つ特筆すべきことがあります。それは薪ストーブも太陽集熱暖房も、換気しながら暖房してくれるということです。薪ストーブは薪が燃え、煙突から燃焼した空気が常に排出されて行きます。薪ストーブへ吸気される空気は、吸気アダプターを付けた薪ストーブ以外であれば外気を室内に取り入れるので、常に新鮮な外気を室内に取り込むことになります。我が家ではこの給気を、地中に埋めた7mの長さの給気管を通ってくる外気を取り入れるしくみにしています。冷気は地中を通過するうちに地熱で暖められるので、直接外気を取り入れるよりは室温の低下を防ぐことができます。また、太陽熱集熱暖房は薪ストーブとは逆に外部の新鮮な空気を室内に押し込むことで暖房しますから常に新鮮な空気を取り入れ、汚れた室内の空気を排出しながら暖房することができます。両方とも換気しながら暖房してくれる。これは他の暖房器具では考えられないことです。

数値で表される快適さより心の豊かさを

 普段家庭に届く電気はコンセントの向こう側のイメージが湧きません。しかし今は、自分たちが使っているエネルギーがどのようにつくられているのか、それをどのようにつかっているのかを意識しないといけない時代ではないかと思います。

 薪ストーブや太陽エネルギーを利用した暖房システムは、それによって快適な生活をおくれることはもちろんですが、薪と太陽という自然の恵みを日々感じて生活できることがなにより嬉しく、楽しいことなのです。薪を集め、燃やすことで自分の生活の周りにある里山や自然環境に触れ、太陽熱を使うことで四季の変化を敏感に感じながら生活する。自然を制御して快適な生活を求めるのではなく、自然と共に暮らす喜びを感じながら毎日を過ごすことができます。

 物質的な豊かさや快適性よりも、心までも暖めてくれる古くて新しいエネルギー。薪ストーブや太陽熱で暖を採ることは貧しい昔にもどるのではなく、われわれに新しい豊かさを与えてくれるものなのです。


薪ストーブライフ創刊号 2007年

参考  太陽熱集熱システム“そよ風” (株)環境創機 http://www.kankyosouki.co.jp/