松原正明建築設計室 建築家 板橋区 設計事務所 OMソーラー そよ風 薪ストーブ 住宅.別荘 自然素材の家

薪ストーブと家づくり

004.jpg 私の事務所では新築住宅のおよそ半分に薪ストーブを設置しています。最近ではメディアでも取り上げられるようになり、徐々にですが新築時に薪ストーブを設置される方が増えてきているように思います。家の中で炎がゆらめく暮らしのイメージからか最初はあこがれで薪ストーブの設置を考えるものの、現実問題として薪の手配や煙突掃除などのことから、あきらめてしまう方も多いようです。しかし、その特別な暖かさと炎のある暮らしは多くの人を引きつける魅力をもっているのも確かです。

 さて、薪ストーブは暖房器具ですので、その能力を活かすためには当然ながら家のつくり、間取り、断熱性などが大きく関係してきます。煙突の設置場所は、近隣への配慮や自分の家の屋根による風圧帯の影響、メンテナンスの容易さなどを考慮しなければなりません。また、最近の住宅では、気密性や義務づけられた24時間計画換気などが薪ストーブに与える影響も少なくないため、新築の住宅に導入する場合は、薪ストーブについての十分な知識と計画が必要です。とはいえ薪ストーブを設置する家だからといって特別な工事が必要となるわけではありません。工事費に影響するのはストーブと煙突の設置工事、ストーブ周囲の防火措置や炉台工事、そして煙突の屋根抜き部分の工事費が、一般の住宅との違いと考えてよいでしょう。

暖房器具としての薪ストーブ

 暖房器具は、「放射」「対流」「伝導」またはその複合によって室内を暖めますが、薪ストーブは主に放射熱により室内を暖めるというのが大きな特徴です。燃焼している薪ストーブ内部の温度は300℃~1000℃、表面温度は300℃前後になり、熱くなった薪ストーブからは熱線が出て、壁、床、天井などに当たり、前後・左右・上下から万遍なく熱が伝わります。人の体にも熱は直接伝わり、包みこむような遠赤外線作用で体表深部にある温点を刺激します。一方、薪ストーブ周囲の空気が暖まって上昇し、そこに冷たい空気が流れ込んで対流も生じます。そのため空気の流れを上手に利用すれば、放射熱による作用と共に薪ストーブ一台で家全体を暖めることが可能です。薪ストーブを設置しようとしている人のほとんどが、それ一台で家中を暖めようと考えるでしょう。現在市販されている薪ストーブの能力は、きちんと断熱された家であれば30坪ほどの家を十分暖めることができます。

 日本の昔の家は、引き戸を開ければ部屋同士が繋がり、風通しが良いように造られていました。夏の快適性を主として冬には厳しい家でしたが、現代の住宅のように優れた断熱性能があれば、風通しと暖かさの両方を享受することができます。吹き抜けがあれば、暖められた空気が対流することによって、1階に置いた薪ストーブ一台で、2階も暖かくなります。このようなひとつながりの空間は、プライバシーが確保しにくいという反面、家族の気配がどこにいても感じられる家族の絆を生む家となります。

 もうひとつ薪ストーブの特筆すべき点は、換気しながら暖房してくれるということです。薪が燃えることで煙突から燃焼した空気が常に排出されて行きます。供給される空気は、給気アダプターをつけた薪ストーブ以外であれば、おのずと給気孔や隙間から外気が室内に取り入れられるため、常に新鮮な外気を室内に取り込むことになります。エアコンやファンヒータは室内空気の対流によるものです。機器によって暖められた空気をファンで送風し、室内の空気を循環させて暖めます。FF式ファンヒータは、室外から給気し、室外へ排気をしますが、基本的には、室内で空気が動き、部屋を暖めます。換気するという機能は他の暖房器具にはない特徴と言えます。

日本で手に入る薪ストーブ

 現在日本で手に入る薪ストーブの種類は国産、輸入品を含め100機種以上にもなります。輸入品は主に北欧、北アメリカ、台湾その他の国から入ってきていますが、日本暖炉ストーブ協会に加盟店が取り扱っているのはその信頼性から北欧と北アメリカから輸入されるものがほとんどです。それらの国々では、昔から薪ストーブを使ってきた歴史と伝統があり、現在でも日本では考えられないほどの薪ストーブ普及率です。そのため、安全性や排気基準など規制が厳しく決められており、それらをクリアしたものが輸入されてきています。一方、日本では小さな工房による手作りストーブが多くみられます。そのほとんどが鋼板製で、手作りならではの独創的なデザインや、特徴あるクッキングストーブなどがあり、燃焼方式も工房ごとに工夫をこらしていて、排気や燃焼効率においても配慮したものがつくられています。これらを設置するのは、薪ストーブ設置・販売店もしくは経験のある工務店が基本となります。なかでも日本暖炉ストーブ協会の加盟店は、協会主催による技術研修を積んでいたり設置経験も高かったりするので安心と言えるでしょう。新築の場合は、上棟後の屋根板金工事の時期に屋根抜き煙突周り工事。そして建築工事としての炉台工事、その後完成間近のストーブ本体と室内煙突の取り付けという手順となります。

薪ストーブにかかる費用

 薪ストーブを設置するには、どれくらいの費用をみておいたらよいのでしょうか。カタログに書いてある値段は、薪ストーブの本体価格として20万円くらいから100万円近いものまでさまざまです。しかし、薪ストーブの設置費用には、本体とは別にそれに付随する煙突の値段と、工事費、運搬費などの金額が加わります。20万円の薪ストーブを設置して費用が100万円になることがあるのは、このためです。薪ストーブ設置の見積もり例を挙げましたが、薪ストーブ本体の値段よりも煙突費、設置費の占める割合が大きいことがわかります。煙突の種類、長さ、屋根や壁抜きの状態などによって金額は変わってきますが、薪ストーブの値段に60~80万円の金額を加えたものが薪ストーブ設置費用の目安となります。室内の煙突から熱を採るために、価格の安いシングル煙突を使うという考えもありますが、現在では薪ストーブの能力を発揮させるためと防火上の安全のために、断熱二重煙突が必須と言われています。また、これとは別に建築工事費がかかります。屋根抜き煙突周りのタルキ加工手間、雨仕舞の屋根板金加工手間、そして薪ストーブが置かれる炉台工事、後側面の防火措置などです。炉台にはコンクリート、板金、レンガ、タイル、石など様々な素材が使われますので、それによって金額は変わってきますが、設置費用と合計すると100~150万円にもなります。しかし、電気やガスの床暖房等の設置費用と比べれば、それほど高価ではないことに気がつくでしょう。趣味で薪ストーブを焚くには少々高価ですが、家全体を暖める暖房器具として考えれば、そう高いものではないと思います。さらに、燃料である薪を無料で手に入れられる方ならランニングコストはかかりません。

薪ストーブは環境にやさしい。

 薪ストーブで薪を燃やせば煙突から二酸化炭素が排出されますが、伐採された後には再び木が成長する過程で同量以上の二酸化炭素を吸収して炭素を固定してくれます。薪は持続可能なエネルギーで、石油や天然ガスとの違いがここにあります。燃やさず山で腐らせた方が良いという人もいますが、木が腐敗する時には同じように二酸化炭素を排出しますし、二酸化炭素の21倍の温室効果ガスといわれているメタンガスも排出します。薪を燃料として使えば、化石燃料を使わないうえにメタンガスを発生させないことになりますから、森で無駄に腐らせるよりは、ずっと環境に良いことになります。北欧や北アメリカでは、国が薪ストーブを推奨し全世帯の80%で薪ストーブを設置しているという地域もあります。環境にやさしく、他の暖房器具にはない暖かさ、そして家の中に炎のある暮らし。これからは日本でも煙突のある家が徐々に増えてくるのではないでしょうか。


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引用文献
松原正明著:薪ストーブのある家づくり、第三回「薪ストーブの機種選定」
薪ストーブライフNo.11、P50 、P52、2011年